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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)84号 判決

一 請求の原因一、二(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 取消事由についての判断

1 本件審判の請求は、商標登録の取消しの審判に関する商標法五〇条によるものであるところ、同条は、右審判の請求人適格について特段の定めをしていないが、右審判は、同条にいう商標登録の取消しを求めるについて法律上正当の利益を有するものに限り請求することができるものと解すべきである。そこで、本件審判の請求について、原告が右のような利益を有するか否かについて検討する。

(一) 請求の原因三1(件外出願の経緯、A及びB商標の構成、指定商品等)は当事者間に争いがなく、右事実並びに成立に争いのない甲第四号証、第五号証及び乙第二号証によれば、原告は、昭和五一年三月二六日、特許庁に対し、B商標について件外出願をしたが、昭和五五年七月二五日付で、A商標及び登録第一〇七〇〇五四号商標を引用されたうえ「B商標は、右各引用商標と同一又は類似であつて、その登録商標に係る指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法四条一項一一号に該当する。」旨の拒絶理由通知を受け、更に、昭和五七年八月二日付で、右拒絶理由通知の理由を引用した拒絶査定を受けたものであることが認められる(なお、被告は、右拒絶査定においてA商標は引用されていない旨主張し、これに関し乙第一一、第一二号証を提出しているが、同拒絶査定が拒絶理由通知の理由を引用するものであることは前掲甲第五号証及び乙第二号証から明らかなところであり、成立に争いのない前記乙号各証によつても、右引用に特段の留保が付されているものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。)。

(二) ところで、本件商標がA商標と連合商標であることは当事者間に争いがなく、右両商標の構成を示すものであることにつき当事者間に争いのない別紙(一)及び(三)によつてこれを対比しても両商標が少なくともその称呼を共通にするものであることは明らかであるが、このように本件商標とA商標が類似する場合に、更に、A商標とB商標の間の類似性が肯定されたからといつて、必ずしも本件商標とB商標が類似するものといい得るものでないことは被告主張のとおりである。しかしながら、本件商標、A商標及びB商標の間に右のような関係が認められるときは、少なくとも本件商標とB商標も類似であると判断される蓋然性が高いものということができる。

そこで、先ずA商標とB商標の類似性を検討する。当事者間に争いのないB商標の構成(別紙(二)のとおり)に徴すれば、B商標に描かれた図形がいわゆるキユーピー人形を描いたものであることは一見して明らかであるところ、キユーピー人形がわが国において周知のもので、その形状も極めて特徴的であり、キユーピー人形の図形から直ちに「キユーピー」との称呼を想起し、逆に「キユーピー」という称呼から直ちにキユーピー人形を連想する程度に一般に親しまれているものであること(この点は当裁判所に顕著である。)、A商標は「キユーピーコーワ」との片仮名八文字から構成されるところ、簡易迅速を旨とする取引界の実状に照らせば、これを簡略化して、「キユーピー」のみ又はその余の「コーワ」のみの称呼により取引等されることもあり得るものと考えられることに徴すれば、A商標からは「キユーピー」又はキユーピー人形の称呼、観念が生じないとはいえないから、被告主張のようにA商標とB商標との間には類似性がないと断ずることは相当ではなく、類似と判断される可能性を否定することはできないものといわざるを得ない。

この点に関し、被告は、A商標から右のような称呼、観念が生じ得ない理由として(イ)ないし(ハ)の理由(被告の主張1)をあげており、そのうち(ハ)は要するにA商標の「キユーピー」と「コーワ」の部分が分離し得ないことをいうものであるが、A商標を構成する「キユーピーコーワ」の各文字が同書体、同大、同間隔をもつて構成されていることは被告主張のとおりであり、また、「コーワ」が被告の商号の略称であるとの点及び医療品の分野において「コーワ」との商標が周知著名であるとの点が仮に被告主張のとおりであるとしても、前示したキユーピー人形の周知性や取引の実状等に照らせば、被告主張の点から、A商標における「キユーピー」と「コーワ」の部分が不可分一体に結合しており、これから「コーワ」の部分を省略した「キユーピー」との称呼が生じることはありえないとまでは到底いえず、また、右(イ)及び(ロ)において主張のような事実が認められるものとしても、これらはいずれも件外出願とは別個の商標出願手続における特許庁の処分にすぎないから、その処分の当否を論ずるまでもなく、右の認定判断を左右するものではない。また(ロ)に関し、被告は、(ロ)の事実によれば、件外出願に係るB商標とA商標が類似するのではないかとの特許庁の担当審査官の拒絶理由通知の段階における心証は撤回されたものとみるべきであるとも主張しているが、(ロ)の事実から直ちに右のように断ずることができないことは勿論、仮に主張のとおりであつたとしても、そのことは、両商標の類似性が客観的に否定されたことを意味するものではなく、右の認定判断を妨げる事情とはいえないことは明らかである。(なお、被告は、本件商標とA商標が連合商標とされたのは、両商標が「キユーピーコーワ」との称呼において類似するが故であるとも主張するが、仮にそうであるとしても、A商標が本件商標との連合商標とされた理由とA商標からどのような称呼、観念を生じるかの問題とは自ら別個の問題であるから、そのことが右認定判断を左右するものではないことも勿論である。)。

(三) 次に、本件商標とB商標との類似性について検討するに、本件商標は、別紙(一)のとおり「Q.P.K〓WA」とのローマ字六文字を横書きし、QとPの各文字の後にそれぞれピリオドを付してなるもので、キユー・ピー・コーワと発音されるものであるところ、「Q.P.」の部分は、正確には、キユー・ピーと区切つて発音されるものではあるが、商品取引の実状として電話等で称呼のみにより取引されることもままあることを考慮すると、キユーピーと連続して発音される場合とほぼ同視して差支えないというべく、そうであれば、A商標とB商標の類似性に関し説示したところは、本件商標とB商標との間にもほぼ当てはまるものということができる。もつとも、被告は、本件商標の「Q.P.」の部分は特別顕著性ないし自他商品識別の機能を欠くから、A商標におけるより一層強い理由で、この部分が他の部分から独立して「キユーピー」又はキユーピー人形の称呼、観念を生ずることはありえない旨主張するが、右ローマ字部分が単なる符号とか記号としての意味しか有さないような場合は格別、これが「キユーピー」と発音できるものである以上、取引者、需要者がこの部分から周知のキユーピー人形を想起し得るものであることはA商標におけると同様であり、また、Pの後のピリオドに着目するときは、A商標におけるよりも、「Q.P.」の部分と「K〓WA」の部分が分離されやすいともいい得るのであるから、右被告の主張もにわかには採用し難いものというほかない。なお、被告が、この点に関する自己の主張を裏付けるために援用した特許庁商標課編の「商標審査基準」は、特許庁における商標登録出願審査事務の便宜と統一のための一応の準拠を定めた内規にすぎず、また、同じく被告が援用する成立に争いのない乙第九、第一〇号証も異なる事案に対する特許庁の判断にすぎず、いずれももとより裁判所を拘束する性質のものではなく、既に示した判断を左右するものではない。

(四) しかして、昭和五七年一月一八日付でA商標の指定商品中「医療補助品」についての登録が一部放棄を原因として抹消登録されていること、件外出願に対してA商標とともに引用された登録一〇七〇〇五四号商標についても昭和六一年四月三〇日付で存続期間満了を原因として商標登録の抹消登録がなされていることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、既に審決がなされた昭和六三年三月四日の時点で、件外出願に対する拒絶の関係で、登録第一〇七〇〇五四号は引用のおそれなく、また、A商標は、B商標の指定商品中「医療補助品」については、同一の指定商品に使用するものとして引用されるおそれはなくなつているものであることが明らかであるところ、本件商標がB商標と非類似とはいい得ず、かえつて、A商標におけると同様、類似と判断される可能性が否定できないこと及び本件商標の指定商品中に「医療補助品」が含まれることは前示のとおりであり、また、件外出願につき未だ拒絶査定に対する不服審判が特許庁に係属していることも当事者間に争いがないのであるから、右審判手続において、今度は本件商標がB商標の指定商品のひとつである医療補助品に使用するものとして引用されるおそれがないと断定することはできないところである。そして、B商標の出願人である原告がこのような立場にある以上、本件商標につき、その不使用を理由とする登録取消しを求める法律上の正当な利益を有するものと認めて差支えないものというべきである。

2 そうすると、件外出願の拒絶理由として本件商標が引用されていないことを理由に原告には本件審判を請求する法律上の利害関係が存しないとした審決の認定判断は誤りというほかなく、これがその結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編注1〕本件における特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点は左のとおりである。

一 被告は、その構成を別紙(一)のとおりとし、指定商品を第一類「化学品、薬剤及び医療補助品」とする登録第四七八三〇〇号商標(昭和二九年一月一日登録出願、昭和三一年三月一九日設定登録、昭和五一年七月八日及び昭和六一年二月一九日存続期間の更新登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、昭和五七年八月六日、商標法五〇条一項の規定に基づき、被告を被請求人として、本件商標の指定商品中「医療補助品」についての商標登録の取消しを求める審判を請求した。特許庁は、右請求を昭和五七年審判第一六五四五号事件として審理したうえ、昭和六三年三月四日、「本件審判の請求を却下する。」との審決をし、その謄本は、同月二三日に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件商標は現に有効に存続しているものであり、その構成、指定商品及び設定登録日は前項記載のとおりである。

2 請求人(原告)は、「本件商標の登録はその指定商品中「医療補助品」についてこれを取り消す。」との審決を求め、その理由として、請求人は、「KEWPIE」「キユーピー」の文字及びいわゆる「キユーピー」の図形よりなる商標を所有しているが、その類似商標を出願するとき、本件商標の連合商標である登録第四七八三〇一号商標(以下「A商標」という。)を引用されて拒絶されている。いわゆる連合のけりあいである。よつて、請求人は、本件審判を請求することにつき利害関係を有するもので、やむを得ず審判請求に及んだものであると述べた。

被請求人(被告)は、「本件審判の請求を却下する。」との審決を求めると答弁し、その理由として、本件審判の請求は、根拠法令及び理由が不明確な不適法なものであり、更に、件外の請求人の商標登録出願の拒絶理由に本件商標が引用されているものでもないから利害関係が認められない。なお、本件商標の連合商標が「薬剤」について使用されていることを立証すると述べて書証を提出している。

これに対し、請求人は、本件審判の請求が商標法五〇条に基づくものであることは明白であると述べた。

3 よつて審理するに、本件審判の請求がいかなる理由、根拠のもとになされたものであるか、その文言のうえからは必ずしも明確とはいえないが、審判請求書並びに昭和五八年一月四日付弁ばく書の全趣旨に徴すれば、商標法五〇条の規定に基づく取消審判の請求と認めることができ、これを否定すべき特段の事情は見出せない。したがつて、この点に関する被請求人の主張は認められない。

次に、当事者間に審判請求の利益の有無をめぐつて争いがあるので、この点について判断するに、請求人が利害関係を有する理由としてあげる請求人の出願(商願昭和五一年一八八〇五号、以下「件外出願」という。)に対する拒絶理由は、本件商標ではなく、前記A商標及び登録第一〇七〇〇五四号商標を引用していることが認められるところ、右審査経過等を総合勘案すれば、本件商標の存在は、右件外出願に対し、具体的かつ直接の障害となつているものとは必ずしも認め難く、この点についての被請求人の答弁に対して請求人も反論するところはない。してみれば、請求人は、本件審判を請求するについて法律上の利益を有するものとはいえない。

4 したがつて、本件審判の請求は、不適法なものであるから、商標法五六条において準用する特許法一三五条の規定により、却下を免れない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三)

<省略>

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